このメッセージを発したのは国内外で活躍する画家・現代美術家の井田幸昌だ。 芸術に触れる人々の核心をつく一言には、多くのクリエイターたちも賛同。今回、その中のひとりである俳優の山田孝之との対談が実現した。 ジャンルは違えど同じ表現者であり、自身も何より芸術を愛する2人が語った「表現が持つ力」とは? BuzzFeed Japanの独占インタビューを前後編でお届けする。 【対談はこちら】「わかってたまるか」山田孝之が敬愛するアーティストに明かしたホンネ
余白がないと、表現者側が受け手側の想像力を奪っちゃう
井田:これは誰かに希望を与えたり幸せにすることが前提にないと、成り立たないような気がするんだよね。どうですか。 山田:うんうん。あと僕が制作側の時は必ず「答えを決めつけないようにしよう」って意識がありますね。答えがわかりやすい作品はもういっぱいあるから、答えが決まっていないものもあった方がいいと思っていて。 それは、同じ映画を観た友達や恋人、家族と「あれってどういうことだと思う?」って、会話のきっかけになるべきだと僕は思っているんです。「あっ、そうやって思うんだ」みたいに、お互いのことを知るきっかけになる映画もあった方がいい。 井田:アートも問い掛けみたいな言葉はよく使うんです。ある程度ミステリアスな部分というか小説でいう行間みたいな余白がないと、表現者側が受け手側の想像力を奪っちゃうから、それは避けたいなと思ってますね。 ――人それぞれに答えがあっていいんですね。 山田:僕はそうあるべきだと思ってます。余白がなければ、そこに対して感情も動かないわけだから、その会話が生まれない。 ――では、おふたりは受け手として素晴らしい作品を前にどのように楽しんでいるのでしょうか。 井田:僕は勝手に想像しますね。例えば、いまだにゴッホの麦畑の絵とか見て超感動するんです。それで「彼は何でこう描いたんだろうか?」って想像します。そこに彼の中のパーソナルなドラマが多分あるはず。知りたくなった時はその現場まで行っちゃったりするんです。 山田:おもしろい。同じ場所に行くのが一番、自分なりの「ゴッホがなぜ描いたのか」の答えが見つかるかもしれないですね。ゴッホはもういないんだけど、そこで描いたという事実はあるわけだから、思いが絶対に残ってる。 井田:そうそう。フランスにあるゴッホがいた部屋は、行ってみたらすごく重たい感じがしたんです。 でも、そこから麦畑に向かう道路があって、歩いていくと急にバーッと開ける。すげーきれいだから、「なるほど。あんな暗い部屋にいたら、それはこんな明るい麦畑を描きたくなるな。あの場所で絵を描くことが彼にとって、ある種の救いになっていたんだろうな」と思ったんですよね。 さらに感動したのが、ゴッホのお墓ってその麦畑の目の前にあるんですよ。彼が多分“一番幸せだった瞬間”のその場所にお墓を建ててあるから「粋なことするなぁ」とか思いながら。 山田:映画はやっぱり、さっき言ったように人と話すことの喜びもありますよね。そうすると何回も観た映画でも新しい視点でまた楽しめるし。 あと人って変わっていくじゃないですか。例えば3年後でも5年後でも10年後でも、同じものが全く違うように見えてくる。そういうのも楽しみのひとつだなと思ってます。それは音楽でも、絵でもそうだと思いますね。 ――「10代の頃これ好きだったな」って観てみたり…。 山田:あります、あります。逆に、マジでこの映画観なきゃ良かったっていうのもあって(笑)。「二度と観ない」って思ったんですけど、そこまで思わせるって逆にすごいことなんですよね。だから、今観たらどうなるんだろうっていうのは、たまに思います。 井田:それくらい自分の中に刺さったってことですもんね。 山田:うん。それは音楽でもアートでもそう。
嫌悪感抱く人と絶賛してくれる人が両方いて当たり前
井田:「クソだな」って言われることもそりゃあります。絵って自分のかわいい子どもみたいなものだから、もちろん傷つきますよ。ズキッてなる(笑) でも、できちゃったものっていうのは世の中のものだし、誰かのものだから、嫌悪感抱く人とかすごく絶賛してくれる人とか両方いて当たり前。受け止めるも何も「そういうもんだよな」と思って傍観してる感じ。 ――山田さん、とてもうなずいていらっしゃいますね。 山田:映画でも絵でも音楽でも何でも、やっぱり人によってはこれ以上ない最高なものだけど、人によってはゴミなんですよね。便利グッズも重宝する人がいるわけだし、使わない人からしたらゴミじゃないですか。だからゴミになる人はゴミのままでもいいんじゃないかなと思います。 井田:そうだね。だから必要としてくれてる人がそれを享受して楽しんでくれたら、それだけですごい幸せなんです。 山田:うんうん。ただ、ゴミって思う人が、生きていく中で価値観が変わって「あっ、意外とゴミじゃなかった、これ」ってなったらいいなとは思います。やっぱり誰にとってもゴミが増えるより、ステキだなって思えるものが増えた方がいいじゃないですか。 ――ステキだなって思う作品には、前向きなれる力がありますよね。 山田:いまだに、そういうお手紙をいただいたりするんです。「精神的にキツかったけど、この作品ですごく救われた」とか。僕が何か表現して出すことによって、人の命が奪われるよりは救ってる方が多いだろうと信じたい。
井田幸昌『Panta Rhei|パンタ・レイ -世界が存在する限り-』
公式サイト:https://ida-2023.jp ◆京都市京セラ美術館2023年9月30日(土)~12月3日(日)主催:京都新聞、京都市 〈井田幸昌(いだ・ゆきまさ)〉画家・現代美術家。1990年、鳥取県出身。2019年東京藝術大学大学院油画修了。2016年現代芸術振興財団主催の「CAF賞」にて審査員特別賞受賞。2017年レオナルド・ディカプリオ財団主催のチャリティオークションに史上最年少参加。同年に株式会社IDA Studio を設立。2018年Forbes JAPAN主催「30 UNDER 30 JAPAN」に選出。 2021年にはDiorとのコラボレーションを発表するなど多角的に活動。同年、日本の民間人として初めてISSに滞在する宇宙旅行を行った前澤友作氏によって、作品「画家のアトリエ」がISSに設置された。 制作は絵画のみにとどまらず、彫刻や版画にも取り組み、国内外で発表を続けている。 〈山田孝之(やまだ・たかゆき)〉俳優・プロデューサー。1983年、鹿児島出身。1999年に俳優デビュー。2003年、『WATER BOYS』(フジテレビ系)でドラマ初主演、2004年『世界の中心で、愛をさけぶ』(TBS系)ではザテレビジョンドラマアカデミー賞主演男優賞を受賞。以降、『電車男』『クローズ ZERO』『闇金ウシジマくん』『凶悪』などの映画に出演。近年の作品には、『50回目のファーストキス』『ハード・コア』『全裸監督』『ステップ』『はるヲうるひと』など、多くの作品で主演を務める。また、クリエイターの発掘・育成を目的とする映画プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS』のプロデューサーや監督など、活動は多岐にわたる。