2022年にBuzzFeed Newsで反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:12月14日) 鎌倉幕府を開くという目的に向かって結束していた序盤に比べ、権力争いによって主要人物が毎週のように殺され“退場”していく中盤からは重い展開の連続だ。 権力の頂点に立った主人公・北条義時(小栗旬)の姿は、悲しく辛い。 制作統括を務める清水拓哉さんは、三谷幸喜さん脚本の大河ドラマを束ねるのは『真田丸』に続き2作目。 実は『真田丸』の直後から次回の大河を見据えていたという。 フィナーレを前に、「今だから話せること」を聞いた。 (取材は11月21日、オンラインで実施した) 10月25日に撮影を終え、今は12月18日の最終回の放送に向けて、ポスプロ(仕上げ)作業中です。最後の数話をよりよいものにしようと力を入れて磨き上げている段階です。 とはいえ毎日の収録が無くなって少し落ち着いたかというと……とにかく『鎌倉殿』のファンのためにめちゃくちゃ仕事してます。 ――ファンのために! 今はファンのみなさんのために生きているといっても過言ではありません。 恩に着せたいわけではありませんよ!これだけ熱く応援をいただいたことが、本当にうれしくてありがたくて。 みなさんが喜んでくれることならなんでもしたい、しよう、という気持ちでいます。 まだ言えないですが、最後の最後まで喜んでもらえるものを考えていますので、ぜひご期待ください。 ――清水さんが恩返ししたいと思うほどの熱気が届いていたんですね。 「おもしろかった!」「来週も楽しみ」という感想はもちろん、Twitterで毎回世界トレンド1位になったり、分析や考察をしていただいたり……スタッフもキャストもみんなで楽しみに見ていましたよ。 素晴らしい俳優陣とスタッフに支えられてきましたが、大河ドラマは1年半を超える長丁場ですから、どうしてもしんどいなって思う時もあるんです。 そういう時にみなさんの熱い声援が毎週届くのは、耳元で「頑張れ頑張れ」って言ってもらえているような心強さがありました。 それがあるとないのとでは、やっぱりね、違いますよ。 「キツい、けど…あともう一歩頑張ろうか」と踏み出す力になったと思います。僕に限らずスタッフもキャストもみんな。 みなさんの声援が、作品のクオリティを引き上げてくれたのは明らかにあります。支えてくれたことに本当に感謝です。

「まだ書き足りない」「この人、クレイジーだな」

――『真田丸』(2016年)に続き、三谷大河でプロデュースを務めるのは2度目です。 『新選組!』(2004年)が最初に参加した大河ドラマだったので、三谷作品に関わるのはそこからですね。当時はたくさんいる助監督の一番下でした。 そこから大河を7作やってきて……その代わり、朝ドラは1本もやってないんですよ。NHKのドラマの人間としては結構珍しいかもですね。 ――『鎌倉殿』はいつ頃から動き始めたのでしょうか。 実は三谷さん、『真田丸』が終わった直後から「もう1回やりたい」「まだ全然書き足りない」とおっしゃっていたんですよね。 ……率直に「この人、クレイジーだな」と思いました(笑) 大河は話数も多いですし、時代考証などの面でも特有の苦労がありますし、どんな脚本家さんも1本やるだけで疲弊するんです。 2度経験したからこそ、プロセスの大変さも身を持ってご存知なわけですからね。それでもまだ書きたいってすごいな!とびっくりしました。 ――では、『真田丸』から途切れずにご一緒していた感覚なんでしょうか? 2019年の『いだてん』も(制作統括を)やっていたので、そのまま、という感じではないですが、2017年春の段階では「(題材を)何にしましょうか」というお話は始めていました。 僕はその頃、源義経か北条早雲のどっちかが面白そうだなと思って少し取材を始めていたんです。 そのことを踏まえながらいろいろお話する中で、三谷さんから出てきたのが「北条義時」でした。執権になるこういう人がいて……って。 ――三谷さんのアイデアだったんですね。 もともと北条家にはご興味があったそうで、「王様のレストラン」(1995年放送のTVドラマ)でも北条家の名前をモジった登場人物が出てくるんですよね。 ――そうなんですね!しかし、清水さん案の義経もガッツリ見たかったような…! 捨てがたかったです(笑)

三谷幸喜が描く「勝者の物語」

でも、義経は絶対おもしろいことがある程度予想がつくというか、新選組と真田信繁(幸村)の物語と大きく変わらない気もしたんです。 「圧倒的な人気があって大活躍するんだけど、志半ばで倒れる悲劇のヒーロー」。 その点、北条義時はまったく違う三谷脚本が見られそうだった。 北条家について扱うことになれば、当然、義経が活躍する源平合戦も描かれますしね。源平合戦のあとってみんな意外と知らないよな、そこは描きがいがあるよな、とも思いました。 「どうして北条家が偉くなるんだっけ?」の過程もあんまりよくわからないですしね。みんなが知っている源平合戦を、あえて北条家の目から描くのも新鮮でおもしろい。 極めつけは、これが「勝者の物語」であることでした。 三谷さんが描く「輝ける敗者」は本当に素晴らしいことはわかっていたので、それが勝者――権力の頂点に立った人間を描いたときどんな筆致になるのか、いちファンとしてもぜひ見たいなと。 歴史的には勝ち上がっていくんだけど、失っていくものも、ものすごく大きいわけですよね。それは絶対にドラマになるだろうという。 せっかく三谷さんともう一度大河をやるなら、新しいことをやらなきゃダメだと思ったので。『真田丸Part2』になるのは避けたかったんです。

小栗旬と歴史劇

――2020年1月に製作発表がありました。この時点では、まだ台本はまったくない状態なんですか? そうですね。主演の小栗旬さんも同時に発表したのですが、オファーの際には「ロングプロット」と呼ばれる全体の流れを見ていただいています。 このロングプロットの時点ですごくおもしろかったので、どんな作品にあるか本当に楽しみでした。結構な分量でしたね。 ――小栗さんの爽やかなパブリックイメージを覆すダークな晩年で、変わりように驚きます。三谷さんは「僕だけが知っている小栗さん」と話していますが、ここまで見越していたんでしょうか? キャスティング会議で、三谷さんから小栗さんはどうだろう、という名前が上がったときには「あぁ…」「なるほどな」という感じになりましたね。 小栗さんはたくさんのドラマや映画に出演されていますが、僕の中では、若い頃から大河でずっといい演技をしてくださっているイメージが強くて。 「この作品は、大河ドラマを愛してくれている人とやりたいな」という思いはあったのでぴったりだなと思いました。 あとは舞台、特にシェイクスピアの経験が豊富なことも大きかったです。どっしりした歴史劇を背負う説得力が抜群にある人。義時をやったらハマるだろうなという予感はありました。

“独特”なキャスティングの裏側

――キャスティングは、三谷さんの頭の中にあるものをまずは尊重するのでしょうか。 いえ、三谷さんの提案が絶対ではありません。もちろん、脚本の中でどういう役回りにしたいのかというのはよく聞いて、そこが出発点ですけどね。 会議の席で「あの人がやるとこの役はどうなるだろう? じゃあ、あの人だと? この人だと?」とみんなで案を出し合って……そこはフラットにやりとりできてありがたかったですね。 イメージキャストとしてあげてきた名前を聞いて、こちらから「それならこの人はどうだろう」と提案する、それに「いいね」とのってもらう、そういう場面もたくさんありました。 三谷さんも僕らも「今この人が売れているから出てもらいたい」って発想はまったくなくて、まずはキャラクターを膨らませてから合う人を考えていきます。 なので、いわゆる役の大きさと知名度は必ずしも比例していません。せっかく出ていただいてもその役がハマらなかったら、作品にも俳優にも視聴者にも不幸なことなので。 ――名だたる俳優陣に加え、お笑い芸人の「ティモンディ」高岸宏行さんや「我が家」坪倉由幸さん、声優として活躍する木村昴さんや山寺宏一さんなどキャスティングの幅広さも印象的です。 「そういうひねりをきかすんだ!?」と驚かされることが多いんですよね。 とにかく映画やドラマ、舞台だけでなく、テレビのバラエティまで幅広くご覧になっているので、三谷さんの中でピンと来た方はスッと名前を出してきます。

先々まで決めすぎない

――今作に限らず、大河ドラマに後半から参加する役者さんは「視聴者として見ていた作品に出られることになって…」と話しているイメージがありますが、放送中に少しずつ決めていくんですか? そうですね、それは“大河あるある”です。 最終話までの大まかな構想はもちろんありますが、役者さんたちが演じることによって起こるグルーヴはものすごく大きくて、それが想定のストーリーを変えることがあるんです。 先々まで全部決めちゃうとその自由度が無くなってしまうことも多いので、細かくは決めすぎないようにしています。 『鎌倉殿』だと、トウ(山本千尋)は当初の予定ではまったく存在していませんでした。 ――無表情でガンガン人を殺していく善児、かなりエッジのたったキャラクターでした。 歴史書『吾妻鏡』にはかなり初期から出てきているのですが、北条家の物語にどう絡ませるか悩みました。 ――確かに途中からスッと加わってきた印象があります。市原隼人さんの色気が話題です。 市原さんのおかげでとても魅力のある御家人の1人になったと思います。 (後編に続く) 反目する北条義時(小栗旬)を討ち取るため、義時追討の宣旨を出し、兵を挙げた後鳥羽上皇(尾上松也)。これに対し、政子(小池栄子)の言葉で奮起し、徹底抗戦を選んだ幕府は、大江広元(栗原英雄)や三善康信(小林隆)の忠言を聞き入れて速やかに京へ派兵することを決断。泰時(坂口健太郎)、平盛綱(きづき)らが先発隊として向かい、時房(瀬戸康史)らが続く。

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